前の記事では、コカやケシを例に、神経に作用するアルカロイドについて見てきました。
神経に作用するといっても、方向性はいろいろあります。
コカインのように覚醒へ向かうもの、モルヒネのように痛みを抑えるもの、自律神経に作用するもの。
その中でも少し不思議なのが、知覚や意識の感じ方を変える成分です。
今回は、サボテンに含まれるメスカリンと、キノコに含まれるシロシビンを中心に、由来・分類・作用の違いをやさしく整理していきます。
なお、この記事は使用をすすめるものではありません。
薬理・文化・意識の仕組みを知るための内容として読んでください。
■ 結論
メスカリンとシロシビンは、どちらも知覚や意識に作用する成分ですが、由来も分類も違います。
メスカリンは、ペヨーテやサンペドロなどのサボテンに含まれる成分で、分類としてはフェネチルアミン系です。主にセロトニン5-HT2A受容体に関係し、視覚や時間感覚、感情の感じ方に影響するとされています。
一方、シロシビンは、いわゆるマジックマッシュルームに含まれる成分で、分類としてはインドール系/トリプタミン系です。体内ではシロシンに変わり、こちらも主にセロトニン系に作用します。
ざっくり言えば、メスカリンは外界の見え方が変わる方向、シロシビンは内面や自己感覚に深く入りやすい方向、と整理するとわかりやすいです。

⚫︎メスカリンとシロシビンの基本比較
まずは、全体像を並べてみます。
| 成分 | 主な由来 | 分類 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| メスカリン | ペヨーテ、サンペドロなどのサボテン | フェネチルアミン系 | 視覚・色彩・時間感覚の変化 |
| シロシビン | マジックマッシュルーム | インドール系/トリプタミン系 | 内省・自己感覚・感情の変化 |
どちらも「知覚変容」を起こす成分として知られていますが、同じものではありません。
メスカリンはサボテン由来。
シロシビンはキノコ由来。
この違いだけでも、かなり印象が変わります。

⚫︎ペヨーテ・サンペドロ・マジックマッシュルームとは
ペヨーテは、小さく丸いサボテンで、主にメキシコ周辺と関わりのある植物です。
メスカリンを含み、伝統的には宗教儀式などで使われてきた背景があります。
サンペドロは、アンデス地域と関係の深い、柱のように細長く育つサボテンです。
これもメスカリンを含むことで知られています。
一方、マジックマッシュルームは、シロシビンやシロシンを含むキノコの総称です。
日本では、こうした成分や対象は麻薬として、厳しく規制されています。
なので、ここではあくまで「文化と成分の関係」として見ていくのが大切です。

⚫︎作用の違い:外側に広がるか、内側に沈むか
メスカリンは、色や模様、光の感じ方など、視覚的な変化が目立ちやすいとされます。
たとえば、
・色が強く感じられる
・模様が動いて見える
・時間が伸びたり縮んだり感じられる
・思考が連想的になる
といった方向です。
もちろん、これは単純に「楽しい体験」という意味ではありません。
感情が増幅されるため、不安や混乱が強く出る場合もあります。
一方、シロシビンは、より内面的・心理的な変化が注目されやすい成分です。
・自分と外の世界の境界が曖昧になる
・記憶や感情が前に出てくる
・自分を別の視点から見るような感覚になる
・思考の枠組みがゆるむ
といった変化が語られることがあります。
最近の研究では、シロシビンがデフォルトモードネットワーク、つまり自己認識や内省に関わる脳ネットワークの結びつきを一時的に変化させることが示されています。

⚫︎意識は身体と結びついている
この話で面白いのは、単なる成分紹介で終わらないところです。
思考や意識は、どこか空中に浮かんでいるものではなく、脳や身体の状態と深く結びついています。
普段の私たちは、
「自分は自分」
「これは現実」
「これは過去の記憶」
という枠組みを自然に保っています。
でも脳の情報処理のバランスが変わると、その枠がゆるむことがあります。
内側の記憶や感情が前に出たり、外の世界との境界が曖昧に感じられたりする。
そう考えると、普段の安定した意識も、かなり繊細な仕組みの上に成り立っているのだとわかります。

■ 補足
メスカリンやシロシビンは、自然由来だから安全というものではありません。
自然のサボテンやキノコに含まれる成分でも、脳や神経に強く作用するものは、心身に大きな負担をかけることがあります。
また、こうした成分は環境や心理状態によって体験が大きく左右されます。
不安、混乱、恐怖感が強く出ることもあります。
そして何より、日本では規制対象です。
この記事は、栽培・入手・使用方法を扱うものではありません。
自然由来の成分が、脳・意識・文化とどう関係しているのかを学ぶための記事です。

■ まとめ
メスカリンとシロシビンは、どちらも知覚や意識に作用する自然由来の成分です。
ただし、由来も分類も少し違います。
・メスカリン → サボテン由来、フェネチルアミン系
・シロシビン → キノコ由来、インドール系/トリプタミン系
・どちらもセロトニン系に作用する
・メスカリンは視覚的・感覚的な変化が目立ちやすい
・シロシビンは内面的・心理的な変化が注目されやすい
そして、この話は「薬物の話」だけではなく、意識と身体のつながりを考える入口にもなります。
普段の自分という感覚も、脳の働きに支えられている。
そう思うと、当たり前の意識が少し不思議に見えてきます。

■ ひとこと
植物やキノコの成分が、色の見え方や時間の感じ方、さらには「自分」という感覚にまで関わる。
そう考えると、自然の中には思った以上に深い仕組みがあるんだなと思います。
ただ、強く作用するものほど、距離感も大切です。
知識として静かに眺めるくらいが、ちょうどいいのかもしれません。

