前の記事では、コカの葉とコカイン、そしてトロパンアルカロイドについて整理しました。
そこで次に気になるのが、ケシとの違いです。
コカもケシも、どちらも植物由来の強い成分と関係があります。
でも、同じようなものかというと、実はかなり違います。
ざっくり言うと、コカ由来のコカインは「覚醒・刺激」の方向。
ケシ由来のモルヒネやコデインは「鎮痛・鎮静」の方向です。
この記事では、コカとケシの違いを、アルカロイドの作用や分類からやさしく整理していきます。
■ 結論
コカとケシは、どちらも神経に作用する植物成分と関係しますが、働き方はかなり違います。
コカに含まれる代表的な成分はコカインです。
コカインはトロパンアルカロイドの一種で、中枢神経を刺激する方向に働きます。
一方、ケシからはアヘンが取れ、そこにはモルヒネ・コデイン・テバイン・パパベリン・ノスカピンなど、複数のアルカロイドが含まれます。ケシ由来のモルヒネやコデインは、痛みを抑えるオピオイド鎮痛薬として医療でも扱われる成分です。
つまり、同じ「植物由来のアルカロイド」でも、コカは上に引き上げるような刺激系、ケシは痛みや興奮を鎮める方向の鎮痛・鎮静系と考えるとわかりやすいです。

⚫︎ケシからは何が取れるのか
ケシ、とくにアヘンを含む種類のケシには、いくつかのアルカロイドが含まれています。
代表的なものは次の通りです。
・モルヒネ
・コデイン
・テバイン
・パパベリン
・ノスカピン
これらはすべて同じ働きをするわけではありません。
モルヒネやコデインは、主に痛みを抑える方向に関係します。パパベリンは血管や平滑筋をゆるめる作用で知られ、ノスカピンは咳止め成分として知られています。
ここがコカとの大きな違いです。
コカは刺激・覚醒に寄る。
ケシは鎮痛・鎮静に寄る。
同じ「神経に作用する植物成分」でも、方向性はかなり違います。

⚫︎モルヒネ・コデイン・ヘロインは何アルカロイド?
モルヒネとコデインは、ケシに含まれる天然アルカロイドです。
構造で見ると、フェナントレン型、またはモルヒナン型アルカロイドと呼ばれるグループに入ります。
一方、ヘロインは少し立ち位置が違います。
ヘロインは、ケシの中にそのまま自然に含まれる代表的な天然アルカロイドというより、モルヒネをもとに化学的に変化させた半合成オピオイドです。
整理すると、こうです。
・モルヒネ → 天然アルカロイド
・コデイン → 天然アルカロイド
・ヘロイン → モルヒネ由来の半合成オピオイド
ここは少し大事です。
「ケシ由来」とひとまとめにされがちですが、天然のまま存在する成分と、人が化学的に変化させたものでは分類が違います。

⚫︎神経に作用するアルカロイドはいろいろある
アルカロイドは、植物などが作る「体に強く作用しやすい成分」の大きなグループです。
その中には、神経に作用するものがたくさんあります。
たとえば、
・覚醒・刺激系
カフェイン、ニコチン、コカイン
・鎮痛・鎮静系
モルヒネ、コデイン
・幻覚・精神作用系
メスカリン、シロシビン
・自律神経に作用するもの
アトロピン、スコポラミン
・神経伝達を遮断するもの
クラーレ系の成分
こうして並べると、アルカロイドといっても働き方はかなり幅広いことがわかります。
「上げる」「下げる」「ゆがめる」「乱す」「遮る」。
どこにどう作用するかで、性質はまったく変わります。

⚫︎フェナントレン型アルカロイドとオピオイド系の違い
ここは少し難しく見えますが、分け方を変えているだけです。
フェナントレン型アルカロイドは、構造で見た分類です。
つまり、分子の形や骨格をもとにした分類です。
一方で、オピオイド系は、働き方で見た分類です。
体の中のオピオイド受容体に作用して、鎮痛や鎮静に関係するものをまとめてそう呼びます。
つまり、
・フェナントレン型 → 構造の分類
・オピオイド系 → 作用の分類
ということです。
モルヒネやコデインは、フェナントレン型アルカロイドでもあり、オピオイド系でもあります。
たとえるなら、
「木造住宅」と「住むための建物(居宅)」は分け方が違うけれど、同じ家が両方に当てはまることがある、という感じです。

■ 補足
コカとケシは、どちらも規制と関係する植物なので、「どちらも危ない植物」とまとめてしまいがちです。
でも、成分の働き方を見るとかなり違います。
コカインは、中枢神経を刺激する方向に働きます。
一方、モルヒネやコデインは、痛みを抑える方向に働きます。
また、ケシ由来の成分には医療で使われるものもありますが、それは医師や薬剤師の管理のもとで使われる場合です。
この記事では、成分の分類や作用の違いを理解するために整理しています。
抽出方法、製造方法、使用方法には踏み込みません。
知ることと扱うことは、分けて考えるのが大切です。
■ まとめ
コカとケシは、どちらも植物由来のアルカロイドと関係します。
ただし、働き方は大きく違います。
・コカ → コカイン、トロパンアルカロイド、覚醒・刺激系
・ケシ → モルヒネ、コデインなど、鎮痛・鎮静系
・ヘロイン → モルヒネ由来の半合成オピオイド
・フェナントレン型 → 構造で見た分類
・オピオイド系 → 作用で見た分類
同じ「神経に作用する植物成分」でも、上に引き上げるもの、痛みを抑えるもの、自律神経に作用するものなど、方向性はさまざまです。
こうして比べると、植物成分の世界はかなり広く、単純に「危ない」「安全」だけでは分けきれないことが見えてきます。

■ ひとこと
コカとケシは、どちらも強い成分を持つ植物だけれど、働き方はかなり違います。
同じ「植物由来」でも、体の中で向かう方向がまるで違うのは少し不思議です。
上に引き上げるもの。
痛みを静かに抑えるもの。
植物の中には、思った以上に複雑な化学の世界があるんですね。
この記事では、コカとケシを比べながら、覚醒系・鎮痛系アルカロイドの違いを整理しました。
そこからさらに広げると、神経に作用する成分の中には、知覚や意識の感じ方を変えるものもあります。
次回はその代表例として、サボテン由来のメスカリンと、キノコ由来のシロシビンを取り上げました。

